2021/06/19 02:15

こちらの記事は小さな星雲通信106号掲載の『鉱石スケッチ』をまとめ直したものになります。


ドイツ、テューリンゲン州はドイツの中央辺りになる。州都はエルフルト。旧東ドイツと西ドイツの境に接した旧東側のエリアである。前回のザクセン州以外にザクセン=アンハルト州、ニーダーザクセン州、ヘッセン州、バイエルン州に囲まれ、他国には接していない。


 テューリンゲン州の東側の銅の精錬の歴史は、古くは紀元前800年〜450年頃に始まり、鉄の精錬は紀元前450年頃に始まった。土器や焼き物などと一緒に銅や鉄が使われていたところを見ると、その頃から鉱山開発は始まっていたと見られる。銀も中世から同じように採掘され、16世紀には需要が高まったので、銀の採掘をしていたこのエリアの人々は豊かだったことだろう。小さな鉱山があちこちにあったという。

 第二次世界大戦後、東ドイツに組み込まれてすぐの1948年、1949年頃にロンネブルグでウラニウム鉱山の開発が始まった。東西冷戦時代を感じさせる話である。それは東西ドイツ統一まで続き、統一後は環境保全のため埋め戻されだという。ウラニウム鉱山から出た標本は取扱いを規制されたが、たくさんの種類の美しくも珍しい鉱物が産出したため、コレクターや坑夫たちの中にはロンネブルグの標本を隠し持っている人達が存在したとか。現在はまた改めて広範囲の鉱物調査が行われているらしく、希土類や、2001年には新鉱物ロンネブルガイト(ロンネバージャイト)が発見されている。


●タゲバウ、カーシュヴィッツ

Tagebau, Caaschwitz, Greiz District, Thuringia, Germany


 

 カーシュヴィッツは現在も稼働しているドロマイトの鉱山である。テューリンゲン州の東の端、ここからはウラニウムは産出しない。ベルリンの壁崩壊後の1990年にドロマイトを採掘するためにスタートした、露天掘りの鉱山である。工業用に使用されるドロマイトを採掘している場所なので、母岩にはドロマイトが結晶しており、そこに小花のように咲く紫のフローライトは、細かいが形の美しいものが多い。



●ヘンネベルグ石切場

Henneberg Quarry, Weitisberga, Wurzbach, Saale-Orla District, Thuringia, Germany


 テューリンゲン州のフローライト産地で有名なのは、他にヘンネベルグ石切場の紫のフローライトがある。ヘンネベルグは地図で見るとカーシュヴィッツから南へ80キロほどの場所に位置している。ペグマタイトと熱水鉱床の両方が含まれているため、たくさんの種類の鉱物が採掘される。この産地のフローライトも細かくて濃い紫をしている。ブラックフローライトに近いくらいの濃さをしている。こちらは建築などに使われる花崗岩を切り出す石切場なので、今後もしばらくは新しい標本に出会えるかもしれない。




●シーバッハ・クリフ

Seebach Cliff, Friedrichroda, Gotha District, Thuringia, Germany


 今回は出会えなかったが、いつか出会いたいのは、テューリンゲン州でも西側にあるシーバッハ・クリフのフローライトである。ネットの写真によると、どうやらこの産地のフローライトの特徴は、透明感のある薄い緑と薄い紫の混ざり合った、グレーがかったファンタジックな色味の結晶になることみたいなのだ。実物を見たいなあ、と空想すらばかりである。

 今後も新しい産地に出会った時に知り得たことを加えていきたい。